『ザ・スクエア』の感想。
観終わったあと、心臓がバクバクしていた。
『ザ・スクエア』は、昨年カンヌ国際映画祭でパルムドール(最高賞)を獲得した映画だ。前々年パルムドールの『わたしは、ダニエル・ブレイク』や、今年頂点を勝ち獲った『万引き家族』と同様に現代社会の問題を観客に投げつけてくるタイプの作品である。
だが描かれるタッチが全く違う。それゆえ、僕はこの映画が大好きだ。
『わたしは、ダニエルブレイク』や『万引き家族』も好きだけども、この映画は傑出していると思っている。
では、何がこの作品の特徴なのか。
先ほど挙げた2作品はわりとド直球でテーマをぶつけてくる映画だったが、『ザ・スクエア』は皮肉に満ちている。ここがこの映画の最大の特長。
『わたしは、ダニエル・ブレイク』や『万引き家族』を観て抱いた感情は「このどうしようもない社会に対して怒り」や「悲しみ」のようなモノだったが、『ザ・スクエア』はもっと切実な感情を抱かせてくる。「この振る舞いが笑えるんだけど、これ自分にも当てはまらないか?」といった具合に。全編を通してアイロニカルな視点で描くことによって、安全な位置にいる観客を脅かすような映画になっていると思った。
この映画の主人公は現代美術館のキュレーターで、現代美術が物語の大きな装置となるのだが、その描かれ方のタッチ自体が現代美術的(鑑賞者を異化させる)と言ってもいいかもしれない。ちなみに痛烈な作風で人気の会田誠が、この作品を観て「俺が作ったかと思うくらいの嫌味」とツイッターで呟いていた……。
モロにアート関係者なら、この映画のツッコミどころはあるかもです。まあ監督は映画畑の人ですからね。でもやっぱり、よく作りましたよ。そんで、カンヌもよく賞をやった。現代美術の欺瞞がこれでもかと描かれてる。俺が作ったのかと思うくらいの業界への嫌味。あー今ヨーロッパ、こんな感じか…と。 https://t.co/itpZ4ldzK8
— 会田誠 (@makotoaida) March 9, 2018
■作品のメインテーマは断絶?
(C)2017 Plattform Prodtion AB / Societe Parisienne de Production / Essential Filmproduktion GmbH / Coproduction Office ApS
また、描かれている内容も非常にクリティカルだと思った。
『ザ・スクエア』は、骨太な一本筋の物語ではなく、いくつかのエピソードを集めて物語が構成されているが、それぞれのエピソードにほぼほぼ共通していえるのが、「他者との断絶」だと思う。
ハイクラスに所属している主人公(現代美術館のキュレーター)は、金銭的にロークラスの所属している人間を生理的に避けてしまう、見下してしまう。主人公が携帯と財布を盗まれてしまい、貧困地区のマンションに向かう際、「俺達は正義だ」とはしゃいでいたのが、いざ着いてみると相手の顔が見えない(想像できない)のにビビってしまう。経済的な格差だけでなく、精神的な断絶が映画の至る所で表現されている。
しかも、この映画が面白いのは、そういった「自身と他者の間に」決定的な断絶があると主人公は自覚しているのにも関わらず、それを認めることができない所だ。どういうことか。
正直にいえば主人公のキュレーターは、「育ってきた環境や今いる環境が、自分と大きく違う人とは話が合わない」と思っているはずだし、もっと言い方をキツくすれば「自分と違う人とは付き合いたくない」と根っこの部分では考えているはずだと思う。しかし、現代アートキュレーターという立場が、その意思表示をすることを認めない。アートに携わる者は、寛容さや、他者理解を深めようとしている姿勢が必ず求められるからだ。
そして、これは僕の個人的な印象が強いかもしれないけれど、カルチャーに関心が強い人はリベラルな人が多い。弱者への思いやりがない人や政府の政策に対して、怒りを燃やしている呟いている人をツイッター等で散見できる。「寛容でなければ、人間として未熟だ」といわんばかりに。でも本当に、自分自身も寛容だといえるのだろうか? この映画は、そんな皮肉を投げつけているように思えた。かくいう僕自身もリベラル思想に傾斜しているし、グサっと来た。僕はこの映画の登場人物になったら、物乞いの人に優しくできるだろう? 憐みではない目で彼らと接することができるだろうか?
ゆえに、この映画で主人公がスーパーにいる物乞いを信頼して荷物を預けるシーンがあるのだが、そこがたまらなく好きだ。
■最高スリリングなシーン
途中でも述べたが、この映画はいくつかのエピソードを集められて構成されているため、断絶以外のテーマもある。最後に、前述した主人公と物乞いのスーパーのシーン以外で、印象的シーンについて触れておこうと思う。それは、美術館関係者を呼んだパーティ会場での出来事。ウルフマンと呼ばれるアーティストがパフォーマンスするのだが、その5分くらい?のシーンがたまらなくスリリングだ。何か事件が起こっても誰か他の人が助けるだろうと見て見ぬふりをする都会のハイクラスの人を皮肉ったシーンが劇中に何度も登場するが、このシーンはその集大成?的な場面。ここでも、登場人物達に腹が立つと同時に、自分だったらどうなるんだろう……と冷や汗をかいた。
(C)2017 Plattform Prodtion AB / Societe Parisienne de Production / Essential Filmproduktion GmbH / Coproduction Office ApS
この映画は、映画好きの友達全員には薦められない。けれど、映画に没入させず、かといって完全に客観視させず、付かず離れずのカメラワークとか最高だし、僕はめっちゃよかったな……。